軍用機の設計思想

軍用機の設計思想(ぐんようきのせっけいしそう)は、軍用機における設計思想である。

機体

増大係数

機体規模は、軍用機設計の基礎計画段階において、航続距離要求と武装重量から計算される。規模に関係する増大係数は二段階に分けて計算が行われる。

1. ブレゲーの航続距離算出式によって必要な燃料重量比を導きだす。ただし、この式はレシプロ機にのみ適用可能である。

ただし、 :航続距離(km)

:プロペラ効率

:燃料消費率(kg/HP/hour)

:巡航揚抗比

:巡航開始重量

:巡航終了重量

大体の離陸重量に対する燃料比率はとなる。

ジェット軍用機、それも特に戦術機の場合は運用高度によって燃費が大幅に異なることから上記のような単純に距離という形で航続性能を要求されることは稀であり、大抵は飛行パターン、飛行高度、速度を指定したミッションプロファイルという形式で(以上を大雑把に言えばCAP任務にHI-HI-HI、地上攻撃任務でHI-LO-HI等の指定、待機時間、急行速度、目標捜索時間等が含まれる)航続性能を要求され、エンジンの出力性能、燃費と見比べながら燃料重量比の見積もりをつけることになる。

2. 下記「増大係数」の式に武装重量と燃料重量を入れると、機体の離陸重量が求められる。 増大係数の元々の意味は「性能を保持したまま搭載量(武装、あるいは燃料)を増やすには、全備重量がどれだけ増えるか」を示したものである。

ただし、

:離陸重量。

:武装の重量。機関砲や爆弾、機銃弾などの重量。

:構造重量比。戦闘機のように高G運動を行ったり急降下制限速度を高める場合は 構造重量比を増して頑丈に作る必要がある。強度を維持しつつ構造重量比を減少させるには新素材や構造上の進歩が必要である。構造重量比を浮かせる方法としては他に、増槽の導入があげられる。空戦等の高G機動に入る前に増槽を投下するという運用を定める事で、高G機動時の機体重量を限定し構造強度要求を緩和することができる。

:推進系統重量比。加速性能、上昇性能、あるいは高高度性能を高くする場合はより推進系統の比率を高める必要がある。技術上の進歩により出力重量比が向上すればこの比率を抑えることができる。

:システム系統重量比。油圧や操縦系統、脚などの重量がここに含まれる。

:1.で算出した燃料重量比。航続距離要求から必然的に決定される。

この式は元々を変形した物である。

戦闘機においては構造重量比が約0.35~0.25、推進系統重量比がレシプロは約0.4でジェットが約0.2、システム系統重量比が0.1となるのが一般的である。[1]

構造重量比、推進系統重量比、システム系統重量比が時代が変遷してもほぼ一定であることから、軍用機の規模は航続性能と武装重量でほぼ決まってしまうため、この二つが計画の根幹をなすものとなる。

安定性

一番単純な例として、1Gの水平釣り合い飛行を継続する場合を想定してみる。後述するCCV設計以前に行われていたコンベンショナルな形式の飛行機の場合、以下の条件が必要となる。

  • 各翼の揚力の合成ベクトルが、重心点からの重量ベクトルと吊り合うこと
  • 空力中心が重心より後ろに存在すること

空力中心が重心より前に存在する場合、微小な横すべりを起こしただけで風見鶏のように回転してしまい、事実上飛行できない。これを風見安定の不足という。 同じことは水平面だけでなく垂直面でも言える。

機体の中で最も空気力を受ける部分は揚力を発生させ機体重量を支える主翼であり、主翼の風圧中心は重心より後ろに置く必要がある。 そして、この事は重心と揚力とのベクトルが吊り合わないことを意味するため、重心の前方に揚力を発生させる前翼が必要か、主翼の後方に下向きの揚力を発生させる水平尾翼、あるいはその両方が必要な事を意味する。

しかし、前翼で揚力を負担させることは機体全体の空力中心が前進することであり、風見安定を補償するために重心を前進させるか、大きな垂直尾翼を設ける必要があり、前者はますます大きな前翼を要求し設計が発散する。後者は抵抗の増大につながる。また、重心位置によっては胴体の強度を要求される。 これに対し、主翼後方に水平尾翼を設けるためには後部胴体が必要となるが、これは空力中心がさらに後退することを意味し、安定性を確保できる。また、胴体に掛かる力は重心から主翼取付部までに特に集中し、構造強度(ひいては重量)を最適化できる。そのため、多くの機体では水平尾翼と垂直尾翼を機体の後端に設けている。デメリットとしては、

  1. 機体重量以上の揚力を主翼が発生させる必要があり、抗力が増大する
  2. 水平尾翼が負の揚力を常に発生させるため、ここでも抗力が発生する

この2点より飛行機としての効率は前翼式より低下し飛行に必要な出力も多くなる。特に後者は機体全体で見た場合、浮揚するための揚力を食いつぶしていることでもあり、純粋に損失でしかない。しかし、安定性を得るための取引としてCCV設計が実用化される前は仕方のないものとされていた。

音速前後では空力中心が前後し、また揚力の発生メカニズムが亜音速では翼周辺の渦を利用したものから超音速では流体が翼下面に当たる反力を利用した形に近くなる。この事から主翼の後流も激しく変化し、尾翼付き機では激しいタックアンダーやピッチアップを発生し安定を失う事がある。直線翼の場合、空力中心が亜音速では前縁から25%付近だったものが、音速で0%付近に、超音速では50%付近に移動する。そのためたとえタックアンダーやピッチアップを抑えこむことに成功しても、モーメントの関係で超音速の水平尾翼は下向き揚力を大きくしなくてはならない。

この音速前後の空力中心移動が比較的少なく安定しているのがデルタ翼とされている[2]。ただし無尾翼デルタの場合は尾翼に相当する部分として翼後部で負の揚力を発生させる必要があり、やはり効率を稼ぎにくい事と、高揚力装置を持てないことから離着陸距離が長くなることが欠点である。

重心位置が後退した場合は安定性を失い、飛行が出来なくなる。重心位置が極端に前方に移った場合も水平尾翼で機首下げを打ち消せなくなり、飛行不可能になる。民間機では燃料タンクは重心付近に置かれ燃料消費が安定に影響しないよう配慮されていることが多いが、軍用機は加えてドロップタンクや爆弾、機銃弾を搭載し、戦場で消費、投下するため、これも設計において十分考慮すべき点である。そのため多くの機体ではこれらの搭載物は重心付近に置かれている。これら兵装を重心付近に置けない場合、あるいは重心と空力中心が離れている設計で機外兵装を搭載する場合、安定性にマージンを確保する必要がある。

重心位置の変動に気を使う航空機として、忘れられがちであるが空挺投下を行う輸送機も挙げられる。投下口への兵員・車両等移動、そして投下と一気に重心位置が変動するため、尾翼面積を大きく取る必要がある。 また、被弾機会が多い近接航空支援機などは尾翼の一部を失っても安定を保てるよう設計する事が望ましい。

その一方で安定性は運動性とトレードオフの関係であり、安定性が過剰な機体は運動性が低下するため、双方のバランスを取ることも設計の大事なポイントとなる。運動性を要求される戦闘機や、レシプロ機時代の急降下爆撃機雷撃機の設計は、他の機種より安定性を妥協した設計にする例が多い。

CCV設計

軍用機の設計において第二次大戦終了後の1940年代後半から遷音速~超音速戦闘機の開発が始められている。動圧の増大から人力での操舵は困難になると考えられており、F4Dは油圧操舵と人工感覚装置を導入した最初期の機体に当たる。上記の遷音速から音速突破までの特性変化に研究不足の面があり、F4Dは縦安定を補正する装置を付加されて実用化された[3]

1949年開発開始、1953年初飛行のF-100によって超音速時代は幕を開けたが、その1953年に開発開始されたカナダのCF-105は操縦桿と油圧装置との間に完全にコンピュータを介したフライ・バイ・ワイヤ(FBW)で1958年に初飛行した。CF-105は後に予算高騰から開発中断となるが、航空機の制御技術に大きな足跡を残したと言える。

時代を並行して可変翼の導入も試みられたが、後退角の変化によって飛行特性が変化するため操縦性が著しく劣る事が問題となった。しかしながらSASやCASといった、操縦系統に電子制御を加えて自動補正するシステムが導入された事により、F-111においてようやく可変翼が実用化をみた。そしてF-15は可変翼ではないが、CASの導入により、空力的設計のみならす電子制御で機体の安定性を高めている事で知られる。

こうした試みとデジタルコンピュータの能力向上から、安定性を空力で受動的に確保するのではなく、動翼制御で『創りだせるのではないか』という発想が生まれてくる。それが動翼等による制御(コントロール)を機体形状定義(コンフィギュレーション)に織り込んで設計した機体(ビークル)、CCV(Control Configured Vehicle)設計である。

CCV設計を行うことで以下のメリットが得られるとされている。

  1. 安定性を後付けできるようになるので、自由度の高い機体形状を取れること
  2. 重心位置変動への許容度を増せること
  3. 尾翼面積削減、あるいは尾翼撤廃による抵抗減少
  4. 運動性の向上
  5. 構造の軽量化
  6. 乗り心地の改善

(3-6については)[4]

受動安定性を捨て能動制御を行うことで高効率な航空機を生み出すのが根底にある概念である。

こうして既存機を改造する形でCCV実験機がいくつか試作された。最初に実用化されたCCV設計機はF-16であり、この機体は亜音速での空力中心位置が重心よりやや前に位置し、突風等でピッチアップを生じるとそのまま失速角度までピッチアップを続けるような空力的不安定さを持ってまで機動性を追求している。そのため、発散前にコンピューターが適宜押さえ込むような操舵を自動で行うことで定常飛行している。

航空自衛隊のF-2では加えて操縦桿を動翼への入力とみなすのではなく、機体の運動方向を指示する装置であるとみなし最適制御をコンピュータが判断して動翼を複数連携させて機動性を向上させている。(操縦桿を引き機首上げの入力に昇降舵だけでなくフラップ・エルロンまで活用して姿勢変化を行う等)

また、F-117のような空力による受動安定性を放棄し、ステルス性を最優先した設計の機体を飛行させることができるのも、CCV設計あっての話である。B-2爆撃機は初の実用全翼機だが、コンベンショナルな全翼機の設計では重心位置と空力中心の関係から後部の翼 -後退角を有する場合は翼端側- で負の揚力を得て安定性を確保するよう反転キャンバー翼、あるいは翼端捩り下げを使う必要があり、効率が低下することになる。しかし公表図面、公表写真では翼面にそのような翼断面形状変化は見られず、安定性はCCV設計とFBWで確保していると判断可能である。

F-16以降の戦闘機・攻撃機の多くはCCV設計の下で開発される事が一般的となった。今日ではその動きは輸送機、旅客機にも広がり始めている。

運動性

ハンドルを切ればそのまま旋回できる自動車と違い、飛行機の水平旋回は以下の手順を踏む。

  1. 旋回したい方向にエルロンスポイラーでバンクをとって揚力を斜めに発生させ、水平成分を旋回方向へ向け向心力を作る。
  2. そのままでは揚力の鉛直成分が減少し、高度を失うので昇降舵で機首上げ姿勢を作り、揚力を増やす。抗力も増えるので速度を維持する場合はスロットルを更に開ける必要がある。
  3. 機首が目的方向に向いたら、バンクを戻し、昇降舵で姿勢を戻す。

第一次大戦時は戦闘機間の速度差が小さく、多くが最大180km/h前後、参加戦闘機中最速だったフランスのスパッド S.XIIIでも218km/hであり、旋回率の対比は旋回半径の大小という形でほぼ把握できていたし、小回りの効く機体の方が格闘戦に強いという図式も直感的に分かりやすいものだった。

第二次大戦に至って旋回半径に加えて旋回率も旋回性能の目安とされるようになる。旋回率とは旋回における角速度だが、軍によっては角速度を360度旋回にかかる時間(旋回秒時)の形で捉えている事がある。逆数の関係になるだけで本質は変わらない。 そして、速度を維持したまま旋回できる最大旋回率を最大維持旋回率といい、速度を失いながらでも更に旋回圏の内側に入って発揮できる最大の旋回率を瞬間最大旋回率という。

向心力Fを求める式は だが、この式の両辺を質量で割ると となり、つまり旋回率の二乗にパイロットにかかる向心加速度aは比例する。ここから旋回のキツさの表現に加速度を使うことがあり、その際の単位として重力加速度G、すなわちが多用される。

旋回中は抵抗が増えるので、維持旋回をするには直線飛行より多くの出力を出す必要がある。逆に言えば、最大維持旋回率が0となり、旋回半径が無限大となる速度がその機体の最大水平速度という事になる。もっとも、大推力でマッハ2を超えるような戦闘機の場合は機体構造の耐熱温度とタービン入口温度で最大速度が制限され、最大速度でも加速や旋回余力を残していることがほとんどである。

旋回率には以下の理由で発揮可能値に上限もある。

  • パイロットの生理的限界。耐Gスーツ無しでは5G前後が、耐Gスーツを着用し訓練した人間でも9Gが限界で、それ以上のGをかけるとブラックアウトに陥る。
  • 機体の構造強度の限界。第二次大戦機では7G~8G前後の要求に安全率を、現代の戦闘機では9Gの要求に安全率を乗じて作られている事が多い。
  • 失速限界。低速で大揚力を出すには迎角を増す必要があるが、失速迎角に達するとそれ以上の揚力は出せなくなる。

飛行機の抵抗は形状抗力が速度の二乗に比例し、誘導抗力が発生揚力の二乗に比例、速度の逆数の二乗に比例する。 つまり、2Gの旋回では誘導抵抗が4倍、4Gの旋回では16倍になり、旋回では誘導抵抗が支配的なパラメータとなる。

最大維持旋回率を高くするためには

  • 主翼面積を増し、機体重量を減らして翼面荷重を低くすること
  • 揚力の増大に伴い誘導抗力も増大するので主翼のアスペクト比を増やすこと
  • 抗力増大に負けないよう、大推力の発動機を搭載すること

が有効になる。しかし

  • アスペクト比の高い主翼はロール率を低下させ、バンク確保に時間がかかり不利となるのでアスペクト比を増やすにも限度がある。
  • 主翼面積を増やすことは機体の抵抗を増やすことでもあり、速度性能を低下させるため、これにも限度がある。

ジレンマの無い選択肢は大推力の発動機搭載しかない。

瞬間最大旋回率は速度が低下してもなお旋回率を引き上げる事が許容されるので、高速側では機体の強度かパイロットの限界で、低速側では主翼の失速限界で決定される。 高速側では、向心加速度の式 に、v=rω を代入すると、 a=vω になる。つまり、かけられるGの上限が一定の為に瞬間最大旋回率は速度に反比例し、低速になるほど旋回率は増大する。こうして急旋回を続けて速度が低下した結果、a=(現在速度/水平失速速度)2となった時に旋回率の増大は終了する。これをコーナー速度といい、機体が発揮可能な最も高い旋回率を発揮できる速度であり、コーナー速度の瞬間最大旋回率が最も高い旋回率となる。低翼面荷重の戦闘機は失速速度も低くなるため、コーナー速度も低くなって瞬間最大旋回率を大きく取ることができる。

失速速度がコーナー速度、即ち瞬間最大旋回率に影響することから、失速速度を低下させる高揚力装置を空戦に使用できれば格闘戦で有利に立てる。戦間期に実用化されたフラップは、第二次大戦時の戦闘機では空戦フラップとして少なからぬ機体で用いられた。空戦フラップではないが、Bf109は高揚力装置として前縁スラットを備え、スピットファイアはおろか、ハリケーンよりも小さい旋回半径での旋回を可能としていた。[5] 主翼迎角を増して揚力を増やすより、フラップを展張して同程度の揚力を発生させる方が揚抗比が改善する領域もあるため、空戦フラップは維持旋回性能を向上させる場合もあった。フラップの展開は抗力も増大させるため旋回に応じて必要最低限の開度を保つことができれば速度減少を抑えることができる。それを実現したのが川西航空機強風から実用化され、紫電・紫電改にも搭載された自動空戦フラップである。

水平旋回は抗力増大に伴い機体の速度エネルギーを消費するため、水平旋回を使わない方向転換方法としてインメルマンターンスプリットSのような方向転換も多用される。この場合、方向転換はロールによって行われる。 ロール率を上げるには

  • アスペクト比の低く、面積の小さい主翼を用いる
  • 燃料タンク等の重量物を主翼内に置かない、置く場合は出来る限り内側、胴体寄りに配置する

第二次大戦のフォッケウルフ Fw190は国情から要求された行動半径が小さく、胴体内に燃料タンクを設けただけで済んだことと、設計者のクルト・タンクがロール率を特に重視したことから同時代では極めて良好な横転性能[6]を持っていた。

日本の零戦が高い運動性を持っていたと言われるが、これは低翼面荷重を生かした高い旋回性を持っていたということであり、NACA Report 868によると横転性能では米英の機体に比べてやや低いレベルにあったようである。

横転性能の向上と旋回性能の向上では特に主翼形状で相反する部分が多く、軍の要求する戦技に適切な形状を選ぶことが必要である。

横転性能の高いFw190が日本に輸入された時には、日本陸軍の操縦士(黒江保彦)によるテストではその点が評価されず、旋回性能の低さが問題視されているし、横転性能が低いとされる零戦ではあるものの旋回性能の高さを米国は脅威視し、ドッグファイトを避けてサッチウィーブ一撃離脱戦法で対抗したのは事実である。

なお、上述は全て、空気力学的な運動性の確保についてである。ジェット機においては、近年、エンジン排気の推力偏向も導入されるようになった。失速速度に近いポストストール領域では動圧が少なく動翼操舵での機体操縦に困難があったが、推力偏向の導入でポストストール領域でも機体の運動性を確保する事が可能となった。

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