絶縁ゲートバイポーラトランジスタ

IGBTの回路図記号

絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(ぜつえんゲートバイポーラトランジスタ、: Insulated Gate Bipolar TransistorIGBT)は半導体素子のひとつで、MOSFETをベース部に組み込んだバイポーラトランジスタである。電力制御の用途で使用される。

歴史

IGBTはサイリスタと同様にP-N-P-Nの4層からなる半導体素子でありながら、サイリスタ動作をさせずにMOSゲートで電流を制御できる素子である。このIGBT動作モードは1968年に山上倖三によって特許公報昭47-21739で最初に提案された。また、1968年にはB.W. Scharf とJ.D. Plummerが4層の横型サイリスタでこのIGBT動作モードを実験的に初めて確認している[1]。この動作モードを持つ最初の縦型素子は1982年にB. J. BaligaがIEDMで論文を発表しており[2]、また、同様な論文が1982年にJ.P. Russel等がIEEE Electron Device Letterに投稿している[3]。このIGBT動作をする素子はInsulated-Gate Rectifier (IGR)[2]、 Insulated-Gate Transistor (IGT)[4]、 Conductivity-Modulated Field-Effect Transistor (COMFET)[3]、やBipolar-mode MOSFET[5]などと呼ばれた。

J.D. Plummerは1978年に「4層のサイリスタでIGBTモードで動作する素子」を特許出願し、USP No.4199774が1980年に登録され、B1 Re33209が1995年に登録されている。

J.D. Plummerの「4層のサイリスタでIGBTモードで動作する素子」は電流が大きくなるとラッチアップしてサイリスタ動作に移るので、ラッチアップが必然的に起きてしまう問題がある。1982年に発表されたIGRやCOMFETはスイッチングスピードが遅く、寄生のサイリスタがラッチアップしやすい欠点があった。IGBTでラッチアップが起こると電流が一点に集中して素子破壊が起こるので、寄生サイリスタのラッチアップの完全な抑制がIGBTの開発の目標となった。1983年にはBaligaやA.M. Goodman等によって電子線照射によってスイッチングスピードが改善され[6][7]、また、ラッチアップ耐量向上の努力がなされた。1983年にはGEがサンプル出荷を始めたが、ラッチアップは克服されなかった。GEの素子は大電流密度でサイリスタ動作してしまい、応用は限定され、その動作はJ.D. Plummerの特許の範囲であった。

Hans W. BeckeとCarl F. Wheatleyは1980年に「アノード領域を有するパワーMOSFET (power MOSFET with an anode region)」を米国特許出願している。この特許は「いかなる動作条件でもサイリスタ動作しない (no thyristor action occurs under any device operating conditions)」ことをクレイムしている。これは実質上、素子のすべての動作領域でラッチアップしないことを意味している。

完全なラッチアップの抑制は1984年、中川明夫等がIEDMで論文発表したノンラッチアップIGBTの発明によって初めて実現された[5]。このノンラッチアップIGBTの設計概念は「IGBTの飽和電流をラッチアップする電流値よりも小さく設定する」というもので、1984年に特許出願された[8]。完全にラッチアップしないことを証明するため、1200 V の素子を 600 V のDC電源に直結して負荷なしで 25 µs の期間、素子をオンさせた。600 V の電圧が素子に直接印加され、流れるだけの短絡電流が素子に流れたが、素子は破壊せずに 25 µs 後に電流をオフできた。この素子特性は負荷短絡耐量と呼ばれるものでIGBTで初めて実現された[9]。これによって、Hans W. BeckeとCarl F. Wheatleyによって特許提案された「素子の動作領域全体でラッチアップしないIGBT」が1984年に実現した。ラッチアップが完全に抑制されたノンラッチアップIGBTでは電流密度と電圧の積は 5×105 W/cm2 に達した[10]。この値はバイポーラトラジスタの理論限界 2×105 W/cm2 を超えており、ノンラッチアップIGBTは破壊耐量が強く、安全動作領域が広いことが検証された。ノンラッチアップIGBTの実現によってHans W. BeckeとCarl F. Wheatleyの特許がIGBTの概念上の基本特許となり、中川等が発明したノンラッチアップIGBTの設計原理が実際にIGBTを実現する上での基本特許となった。これにより現在のIGBTが誕生した。

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